休みのときに読みました。
「死神の浮力」著・伊坂幸太郎
「死神の精度」という短編集から派生した長編サスペンスです。
続編というわけではないので「精度」を読んでいなくても「浮力」は楽しめます。でも、「精度」を読んでいるとより楽しめるかなと思います。
「娘をサイコパスに殺された夫婦が、復讐のために立ち向かう」というのが大まかなストーリーになっています。
「復讐」という重たいテーマではありますが、例のごとく伊坂幸太郎なのでユーモア要素が強く、内容はまったく暗くないです。
タイトル通り「死神」がひとつのキーキャラクターとして登場します。
その名前の通り、「その人間が死ぬべきかどうか」を調査をしている存在で、人間に紛れて人間のふりをして生活しています。(作中では夫婦の夫を死ぬべきか調査)
この死神、仕事で人間を観察しに来ているわりに人間にまったく興味がなく、人間味もない。どこかずれてるというよりまるでずれている「怪物」です。
超越した存在の俯瞰した視点というのがこの作品の魅力の一つだと思います。
夫婦が対峙する「サイコパス」は「二十人に一人の割合でいる怪物」のように描かれています。
人の感情が分からず、利己的で、IQが高い……みたいな。
現実ではサイコパスであっても上手く社会になじめている人もいるみたいですし、必ずしもIQが高いわけではない(むしろ低いとも言われている?)ので、あくまで作品としてサイコパスという怪物を描いたのかな、という感じはあります。
「現実のサイコパスと違う!けしからん!」とは思われて欲しくないなあ…と一読者として思ったり思わなかったり。
そういえば死神の「他人に興味がなく利己的」という点はサイコパスと共通してなくもないです。
つまり、「怪物」対「怪物」……というわけでもなく、あくまで死神は傍観者で、娘の復讐のために立ち向かうのは「普通の人間代表」の夫婦というのが良いです。
物語は二つの結末(=死)があるのですが、「死は誰に対しても当たり前に平等」というが爽快です。
主人公にも敵対者にも、大切な人にも「死」は必ず訪れる。
どうしてそれが爽快に感じるかは、読んでみて感じて欲しい点です。
物語の内容とはやや別件ですが、伊坂さんは相変わらず伏線回収が鬼のように上手いです。
「伏線」というものが好きな人は好きな作品かもしれません。
「ワン○ースの伏線は伏線って言わないだろ!」って毎週ジャ○プを読んでご立腹な人にも安心です。
ただキーワードを回収するのではなく、言葉の意味が変わったり、状況をひっくり返す要素になったり……まあその辺りは「読んでみましょう」としか言えませんね。伏線の話をするとネタバレになりますから。
文章に少しクセがある作家さんですが(そこも魅力なのですが)、人に安心してオススメできるサスペンスだと思います。
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